事業を加速し持続可能なモデルに成長させる。 茨城県北ビジネススクール 2021 フォローアップ講座第4回目 社会課題解決と持続的な経営を両立するプロジェクトデザイン
茨城県の県北地域から起業家を創出する目的として始まった「茨城県北ローカルベンチャースクール」は、昨年までの3年間で、県北地域を舞台に起業家人材を育成・支援するプログラムとして実績を生んできました。今年度は、より規模の拡大や事業の加速などを目指し、ビジネスを学ぶためのプログラム「茨城県北ビジネススクール」にパワーアップ。
今年度の受講生に加え過去の卒業生も対象となるフォローアップ講座の第4回目は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のためオンラインを活用して、2022年1月29日(土)に開催されました。
ゲスト:
株式会社Zebras and Company 共同創業者
陶山祐司
東京大学倫理学専修課程卒業。慶応義塾大学システムデザイン・マネジメント(SDM)学科修士課程修了。米国PMI認定プロジェクトマネジメントプロフェッショナル(PMP)経済産業省で東日本大震災を踏まえたエネルギー政策見直し、電機産業政策等を担当。その後VC/新規事業コンサルとして、105億円の資金調達をした宇宙開発ベンチャーやIoTベンチャーの経営支援、新規事業支援、政策提言等を実施。その後独立し、社会的意義がある事業の経営・新規事業の支援や、社会課題を解決する金融(インパクト投資)、持続可能なまち/住宅づくり等を推進している。[HP]
オンライン開催となったことにより、普段なかなか参加が難しかった卒業生との再会も。今回の参加者は24名。事務局より概要・グランドルールを説明した後、少人数のブレイクアウトルームに分かれて「①名前・②今行っている事業、プロジェクト・③今解決したいこと」をそれぞれ共有するチェックインを行いました。
ゼブラ企業とは?
陶山氏が支援に取り組むゼブラ企業とは、アメリカ西海岸発祥のスタートアップの考え方です。学生時代はずっと野球に打ち込んでいたという陶山氏。「人間形成無くして技術の向上無し。」という指導方針から、「当時は何も教えてもらえず理解できなかったが、大学に入って自分は視野が狭く、周囲への感謝や真摯な姿勢が足りなかったのだと気付けた。」と言います。そこから「自分は社会に対して何を提供できるのか。」を模索し、4年前に独立。その後、ほぼ同じ考えを持っていると感じた「ゼブラ企業」の考え方と出会いました。
お金・人が一極集中せず、もっとたくさんの人に向かってほしい。ゼブラ企業とは、Sex & Startups というタイトルのブログから始まり、「戦争・破壊性とは異なり、もっと建設的に社会を良い方向にしていく企業・金融の仕組みを作ろう。」「一人ひとりの起業家が、たとえマイノリティを感じている人でも、声を上げられるようにしよう。」というメッセージを持ち、全世界で約2万人が賛同し活動しています。シリコンバレーなどに多いユニコーン企業と比較すると「持続可能」「共存」という特徴を持ち、白黒(経済性と社会性)の両側面を追い求めて群れで活動していくところからゼブラ企業と呼ばれているそうです。
「ゼブラ企業の定義を決め過ぎないようにしている。」と話す陶山氏。ゼブラ企業という考え方を浸透させるための必要性として、
社会:株主至上主義に対する新たな価値
資本:長期的な視点での成長/企業に合った資金・支援
経営:日本的経営を見直し/世界への新たな経営(ステークホルダー主義)
の3つを説明していただきました。
「起業の際の3つの軸は、エコノミー・ソーシャル・ライフ。わかりやすい“社会的意義”に固執して縛るのではなく、起業家や働く人たちがどうありたいかも大切にするべき。」と語ります。
利益は目的ではなく前提。
自社が掲げるゼブラ企業の4つの特徴として、上記を紹介していただきました。「利益は必要なものだが、それは目的ではなく前提。目的は一人ひとり考える(Zebras and Companyの場合は「優しく健やかで楽しい社会」をつくること)。その目的に沿った活動をしている人の方が、より応援を得られるし経済的にも上手くいき、起業家自身も幸せになれる。」と説明します。さらに、「利益ばかりではなく従業員・取引先・パートナー・顧客の方を向いた経営ができているか。自分の叶えたい社会を表現し、共有し、行動で示すことが重要。」と続けました。
株式会社Zebras and Companyで支援・応援している企業として、次の例を紹介。
福島県国見町で規格外農作物の新たな流通や、廃棄されていた地域資源を活用した商品開発に取り組む株式会社陽と人や、日本全体の住宅性能を良くするというミッションを掲げ環境性能住宅の普及を進めるWELLNEST HOME、ウニによる磯焼け被害の解決にバイオ技術を用いたウニの養殖で挑んでいるウニノミクス株式会社など。
受講生の中にはすでにその企業のファンで商品購入をしている人もいるほど、素晴らしい事例に全員釘付けでした。
後半は質疑応答コーナー。
チャットを活用しながら質疑を受付けました。
Q:ビジネスの仕組みを取り入れるときにゼブラ企業になるためのステップ
―ビジネスには「自然発展型(ことがら→目的)」「目的設定型(目的→ことがら)」の2つあり、どっちも重要。それぞれを行き来することが大事で、迷ったら1回引いてみて自分達はどういう課題に向かい合っているのかを考え、そこに対してどう働きかけていくのかを整理してみる。全体を見て、その行動で、社会の歯車がどう回っていくのかを考えることが重要。
Q:自分の考えた事業が利益に繋がらない場合のアドバイス
ある実業家から「人が財布からお金を出す瞬間をしっかり見ろ」というアドバイスをもらったことがある。お金を出すほど解決したい悩み、痛みを伴う悩みは何か。リーンスタートアップを身近に感じられる”「創刊男」の仕事術“という本はおすすめ。
多くの個人は、高単価のお金を払い慣れていないので、高単価を考えるならB to B や、費用対効果を考えやすい個人事業主や経営者を対象としたビジネスがいいのではないか。
自分の強み・経験を考えることも重要。「売り方・売るもの・売る相手」や、アンゾフの成長マトリクスにある「サービス・技術」「顧客」において、2つの要素を変えてしまうと難易度が上がると言われている。
Q:地方(少ない挑戦者・男尊女卑・お金を出すことに慣れていない地域)におすすめのプログラムや事例はあるか?
―現状おすすめのプログラム等は浮かばないが、そういった課題はとても感じている。ひとつの提案としては、都市と行き来する。外(都市)と中を繋げることが第一歩なのではないか。それと自治体と一緒に地道に変えていくことが重要。
Q:事業への想いを人に伝える方法
―人によって受け取りやすい方法が違うので、同じことを色々なカタチで伝え続け、実践し続けることが重要。
クリエイティブとは、人の心を動かすこと。フォントや色、行動や表情によっても伝わり方は異なり、その全てによって人の心は動かされる。
Q:お金になりにくいものに投資してもらう方法は?
―投資家も金融機関も「あなたは何がしたいのか?」を問われる時代になっている。よって投資家もカラフルになっており、“Finance for Purpose” (自分たちの色のお金を集めよう)という取り組みをしている。どんな投資家に投資してもらいたいか、選択肢は様々ある。
Q:ゼブラ投資では、軌道修正しきれない時に投資撤退の判断基準は?
―投資家による。儲かっていたらいいわけではない。言っていたことと違う場合は利益が出ていても撤退するという投資家もいる。そうした規律ある経営、仕組みをどのように実現していけば良いのかを模索している。起業家自身が何をしたいのかを整理し伝えられるとともに、それが途中で変わった場合でも、なぜ変わったのかを含めて共有する「発展的評価」といった手法論も研究している。
Q:どういった場で、投資家・行政と出会えるか
―投資家にも様々な人がいるので、自分に合う、共感し合える人と出会うべき。ベストは自分が興味関心あるところで出会える人が理想的。そういった場に足を運ぶこと。
行政向けのビジネス・営業は年度スケジュールを踏まえたタイミングが重要。あとは信頼関係が大事。
Q:プロジェクトの解像度が上がらない時、チームで意見を共有したいがうまくいっていないときにどのようなステップを踏んだらいいか
―新しい切り口が欲しいのであれば色々な人に相談してみるといい。一方、今の自分を整理する、言語化するためにはコーチングを受けてみるといいのでは。起業家仲間でも、お互いにピアメンタリングをやってみたらいいのでは。課題の解決のためにソリューションは変わって構わないので、そうした言語化の結果、ピボットするということも有り得ると思う。
Q:自分がいいと思えるもの作りたいというエゴでも、社会をより良くするためだと繋がれば賛同者は集まってくるか。
―その通り。事業のライフサイクルやハイプサイクルのように、トレンドにはある程度の型がある。自分の取り組んでいる事業が今どの位置にあるのかを把握しておくことが大事。
最後に、当スクールの総合プロデューサーである齋藤氏より、「大事なのは学び続けること。相互メンタリングはぜひ実践してほしい。」とコメントがあり、陶山氏からは「優しく健やかで楽しい社会ということを常に言っていて、特に楽しいを大切にしたいと思っている。なので “こうしなきゃいけない” の思考から抜け出して、まずは1回やってみて欲しい。上手くいかないことが普通で、少しずつやってみることが大事。」とエールが送られました。
たくさんの学びがあった茨城県北ビジネススクールも、今年度はこのフォローアップ講座が最終回。年々増える志高い仲間たちが、お互い刺激を受けながら地域を盛り上げていきます。ますます加速する茨城県北のエネルギーを、これからも楽しみに応援していただければ幸いです。
ライター・撮影:宮地 綾希子