DIYリノベーションで空き家の課題を解決。地域の関係人口づくりを推進する起業家
地域課題として大きく取り上げられることも多い「空き家」。5年毎に調査される「土地統計調査(総務省)」によると、最新の調査である平成25年の時点で、全国で820万戸となっており、平成20年の調査から約63万戸も増加しています。
総住宅数に占める空き家の割合も13.5%と過去最高になっており、今後も空き家は増え続けていくと見られています。
空き家増加の原因となっているのは、高齢化、少子化といった年齢分布の問題と、地方から都市部への人口流出となっており、空き家の増加により地域の安全性やコミュニティ形成が危ぶまれるようになってきました。
地域コミュニティを「暮らし」から復活する挑戦
空き家問題と少子高齢化問題を、空き家を利活用することで解決しようという新しいビジネスが茨城県の県北地域で始まっています。建築家の加藤雅史さんが主宰する「建築楽団」の取り組みです。
茨城県には、現在19万戸の空き家があります。全国的に見ても多い数字になっています。実は、空き家は貸したい人、借りたい人の双方がいるのですが、条件や物件の状態をきちんと分かって仲介可能な信頼できる存在が少ない状況です。
そこで双方のニーズを聞いて仲介し、その上で住むにあたって地域のみなさんと一緒にDIYをする機会を作ることで、空き家の利活用と、引っ越し先の地域コミュニティへの参加のハードルを下げることを行おうと考えています。
空き家の利活用をスムーズに行う工夫
空き家問題への関心が高まる中で、空き家に住みたいというニーズも確実に存在しています。
特に移住希望者の中では、空き家に住みたいという要望が多く、田舎暮らしやUIJターンを支援するNPO法人ふるさと回帰支援センターが発表しているデータによると、地方移住を検討している人の65.2%が賃貸での物件契約を希望しており、2位のアパートの倍の数字となっています。
それでは単純に貸し手と借り手を繋げば良いかというとそういうわけにもいきません。知らない人に空き家を提供する不安や、賃貸するために必要なリフォーム費用の工面、賃貸契約の内容など、様々な課題があり、それらが面倒になって契約まで至らないケースも多いのだそうです。
移住者(借り主)と貸主の不安を解消できる取り組みになると考えています。自治体・貸主・士業(権利関係などの処理)のハブになることで、不安要素を無くします。
また、なぜDIYなのかと言うと、例えば、解体ワークショップや塗り壁ワークショップなどを通じて、空き家をDIYする過程をイベント化し、地域とのコミュニティをつくっていきたいと考えているからです。
建築家だからできる関係人口づくりを提案をする
実はこの取り組みは、加藤さん自身の原体験がもとになっています。もともと、水戸市出身で建築家となり事務所を構えた加藤さんは、たまたま水戸の商店街に関わるようになります。
水戸の商店街に事務所を作るときに、空き物件をDIYして作ったんです。一緒に盛り上がって作ることで、仲間になれるし、コミュニティ作りにつながりました。
そしてブームともいえるDIYに対して、一石を投じたいという気持ちもあるそうです。
建築の構造を見られる自分からすると、明らかに危険だったり、違法になってしまうようなリフォームが行われているのが現実です。だからこそ、建築士として自分が入ることで品質を担保した上でのDIYが提供できると考えています。
住みたい家を、安心安全に配慮して、地域の人と一緒に作る。この取り組みを通じて、県北の課題解決につなげたいと考えています。
空き家問題も、地域コミュニティの衰退も、地方に限った話ではなく、都市部も含めた日本全体の課題となっています。
加藤さんら建築楽団の取り組みが、茨城県で成功事例となれば、横展開で全国にも広がっていくはずです。さっそく4月から、空き家のストックを確保し、移住希望者とのマッチングも始めていくそうです。
加藤さんらの取り組みは、既に大きな追い風が吹いています。それは、茨城県北地域を対象とする「茨城県北ビジネスプランコンペティション」で優秀賞を授賞したこと。地域課題をビジネスで解決する姿勢と、実際の取り組みが評価されての授賞となりました。審査員の面々から好評を受け、自信を深めるきっかけになったといいます。
日本の住まいの課題解決に取り組む新しい挑戦に、注目が集まっています。